研究について

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血液悪性腫瘍に関する研究

福田 誠司

島根大学小児科学では、血液腫瘍に関する研究を行っています。血液悪性腫瘍とはなじみが無い言葉かもしれませんが、 白血病やリンパ腫のことを指します。その中で、急性骨髄性白血病は、以前に比べると治療法が進歩して患者さんの予後 は徐々に改善していますが、大量の抗がん薬治療や血液幹細胞移植など、患者さんにとっては大きな負担となる治療を通 り越さなくてはなりません。そのような治療法は、たくさんの副作用も引き起こし、それらによって生命が脅かされるこ ともありますので、副作用がより少なく、白血病細胞を選択的に除去することができるような治療戦略を考えることが望 まれます。このような問題点を克服するために、最近では、白血病の原因となる細胞内の異常分子を見出して、それらを 特異的に標的とした治療法が開発されつつあります。これを分子標的療法と呼びますが、私たちも、急性骨髄性白血病に 対する新しい分子標的治療法を開発することを目指しています。

大きく、以下の2つのテーマに分けて研究を行っています。

  • 白血病細胞が、抗白血病治療薬に抵抗性を示す分子機構を解明する
  • 白血病細胞が、骨髄の微小環境に留まる分子機構を解明する

例えば、急性骨髄性白血病の中でもFLT3/ITDという遺伝子変異を持つ患者さんは治療に抵抗性を示し、予後が悪いと言われています。 これまでにFLT3/ITDに対する阻害薬がいくつも開発されていますが、いずれも効果は部分的あるいは芳しくなく、阻害薬に反応しな くなる白血病細胞が増えてしまい、治療を困難としています。最近開発され、現在治験が進んでいる薬剤Aに対しても同様で、当初は 治療に対して反応しますが、徐々に薬剤Aが効かなくなってしまうことが報告されました。私たちは、薬剤Aの効果が無くなってしまう 分子機構に関して解明し、新たな2つのメカニズムを見出し報告しました(Hirade et al 2016, Abe et al, 2016)。その分子メ カニズムを基に薬剤Aに対する耐性を克服する治療戦略を提案したいと思います。

もう一つは、白血病細胞が骨髄の微小環境に留まる分子機構に関しての研究です。白血病細胞に対する薬剤の効果が無くなる原因の一 つは、骨髄の奥深くに白血病細胞が潜んでいることです。白血病細胞が潜んでいくメカニズムや、何が白血病細胞を骨髄の奥深くに留 めておくのかということが明らかになれば、白血病細胞を骨髄の中から追い出すことができるかもしれません。私たちはFLT3/ITD陽 性白血病細胞が骨髄の中にいるケモカインCXCL12に対する遊走が有意に促進されることを報告し(Fukuda et al. 2005)、その分 子機構に関して明らかにしました(Onishi et al. 2014)。この分子はRock1と呼ばれるもので、この蛋白量が多くなることが、 FLT3/ITD陽性白血病がCXCL12に対してより強力に引き寄せられる原因でした。Rock1に対する阻害薬は既に別の疾患に用いられて いますので、Rock1阻害薬が骨髄内に潜む白血病細胞が除去できる可能性があります。

自分の発見を海外の学会や、英語での論文として発表することは、何物にも替えがたい充実感と達成感があり大きな喜びです。これま でに、大学院生、血液内科の先生、医学部学生さんが白血病に関する研究に参加してくれました。興味のある方は是非お知らせください。