研究について
間葉系幹細胞を用いた希少難病の再生医療
希少難病の患者さんの多くは確立した治療法がないため、日常生活に支障があったり、生命の危険にさらされていることも少なくありません。 そのような患者さんを救うため、我々は間葉系幹細胞を用いた再生医療に取り組んでします。間葉系幹細胞とは、骨髄、胎盤、臍帯、滑膜、 歯髄などに存在する幹細胞で、骨、軟骨、脂肪に分化します。その機能は大きく3つに分かれており、骨・軟骨・脂肪の再生、免疫調整、組 織修復があります。これらの機能を期待して、骨折、関節症、顎骨壊死、GVHD、クローン病、多発性硬化症、脳卒中、心筋梗塞、肝硬変、慢 性肺疾患などの多くの病気の治療研究が進んでいます。その中で、我々は、間葉系幹細胞の骨再生を期待して、小児の先天性骨系統疾患に対 する骨再生治療に取り組んでいます。
先天性骨系統疾患は診断技術の進歩で原因遺伝子が飛躍的に明らかになっていますが、その病気の患者さんは致死的な経過をとるか、著しく 日常生活が障害されることが多いために、根治療法の開発が望まれています。これまで、先天性骨系統疾患の1つである低フォスファターゼ症( Hypophosphatasia; HPP)に対する間葉系幹細胞を用いた治療を行っています。HPPはTNSALP遺伝子変異により骨の石灰化障害をきたし、 その重症型は、生後まもなく発症し、骨の石灰化が徐々に消失して、呼吸障害により乳児期に致死的な経過をとります。この致死的なHPPに対 して、同種骨髄移植を行った後同じドナーの骨髄から培養増殖した間葉系幹細胞を経静脈的に複数回移植した結果、骨の石灰化の回復だけでな く、筋肉や呼吸障害の改善もみられ、さらに精神発達も伸びることによって、生命予後ともにQOLの改善ももたらすことができました。また、 ドナー由来間葉系幹細胞は有害事象なく投与できており、同種MSCの経静脈投与は乳児において安全に行える治療であることが明らかにするこ とができました。
課題として、正常の骨構造の回復には至っていないため、根治療法とは言えません。この課題を克服するために、現在、骨への遊走能が良好で、 増殖能が高い間葉系幹細胞(Rapidly expanded cells;REC)を用いた治療法や、遺伝子治療法の開発を行っております。これらの方法が確立 すれば、HPPだけでなく骨や軟骨の病気で苦しんでいる患者さんにも貢献できるため、この研究を進めていきます。なお、間葉系幹細胞を用いた 細胞治療として、慢性肺疾患、ミトコンドリア病、神経変性疾患などへの研究も行っております。